Column

自社プロダクトCompass(自社の経営管理システム)

約6分で読めます文:野本 健太(代表取締役)

業務システムが膨らまない範囲の決め方 ― 作らない機能を先に決める

要望に全部応えて、膨らんでない?作らない機能を先に決める。― 2つの木箱にカードを仕分ける手

この記事でわかること

  • 作らない範囲は「どの記録の正本をどこに置くか」で決まる
  • 迷ったときの物差しを1つ決めておくと、機能が膨らまない
  • システムの外で人が足している数字が、ミスの入口になる

業務システムは、使い始めると「これもできると便利」という要望が次々に出てきます。全部に応えると、作る費用も、その後の保守の手間も膨らみ、使う人が迷う画面も増えていきます。機能を膨らませないために効くのは、「何を作るか」より先に「何を作らないか」を決めておくことです。

弊社が社内で運用している経営管理システム「Compass」(エンジニアの参画・稼働・請求・支払・利益を一か所で管理するシステム)では、作るものと作らないものを分ける線を先に決め、それに照らして判断しています。この記事では、その線の引き方と、線に照らして「作らない」と決めたもの・「作る」と決めたものを、判断の考え方として紹介します。

作らない範囲は「正本をどこに置くか」で決まる

会社にはすでに、会計ソフトや給与計算ソフトなど、それぞれの記録の正本(基準になる記録)を持つ道具があります。新しいシステムがその仕事まで抱え込むと、同じ記録が2か所にでき、どちらが正しいのかを毎回突き合わせることになります。範囲を決める最初の一歩は、どの記録の正本をどこに置くかを決めることです。

Compassでは2026年7月、入金の管理をどこまで細かくするかを検討していました。請求した額に対して一部だけ入金があったとき、残りがいくらかを追いかける機能を作るかどうか、という論点です。

その検討の中で、私が大前提をはっきりさせました。Compassは会計ソフトではない、ということです。

  • 会計・仕訳・正確な入出金の額の正本は、会計ソフトに置く
  • 入金と請求の突き合わせ(消込)は運用の管理に使う概算でよく、1円単位で残高を追わない
  • 1円単位で追うなら会計ソフトの実際の値を引く必要があり、入金のたびに何円入ったかを手で入力させるのは現実的ではない
  • 給与の実額を取り込んで精度を上げたのは、利益を正しく計算するためだけ

この線は、開発の規約の一番上に「製品の範囲」として書いています。

迷ったときの物差しを1つ決めておく

線を引いても、境目にある要望は必ず出てきます。そのとき毎回ゼロから議論すると、声の大きい要望が通りやすくなります。判断を安定させるには、迷ったときに当てる物差しを1つ決めておくことです。

Compassの物差しは「利益の計算に効くか」です。効くなら精度を上げる、効かないなら作らない、と決めています。

この物差しで、2026年7月8日に2つの課題を「作らない」として閉じました。

1つ目は、部分入金と残りの債権の追跡です。利益の計算には効かず、会計ソフトの領域です。入金済みか未入金かを大まかに管理する今の形で足りると判断しました。

2つ目は、会計ソフトに渡すためのCSVファイル(表形式のデータ)の出力です。2つの形を検討しました。仕訳の形で出すには、Compassの中に勘定科目の仕組みを持つ必要があり、会計ソフトを作ることになります。一覧の形で出すだけでは、この要望のもとになっていた手作業(毎月の突き合わせのために会計ソフトへ入れ直す作業)は解決しません。どちらの形も目的に合わないので、作らないと決めました。会計の突き合わせは、会計ソフトの側で完結させます。

システムの外の手作業は、ミスの入口になる

「作らない」と同じくらい大事なのが、「作るべきなのに、システムの外に残っている手作業」を見つけることです。システムの外で人が数字を足したり書き写したりしている箇所は、システムをどれだけ正しく作っても防げません。そこがミスの入口になります。

Compassでは2026年9月、請求書の書き方について取引先から指摘を受け、請求の作りを確かめました。消費税の計算そのものは正しく、指摘の核心部分にはすでに対応できていました。問題は別のところにありました。

エンジニアが立て替えた交通費などの経費は、稼働報告の備考欄という自由記入の欄に、文章で書かれるだけでした。請求の金額には加算されず、請求書のPDFでは合計欄の外に注記として文字が出るだけです。つまり経費の請求は、システムの外で人が足していました。取引先からの指摘も、この手作業のところで起きていました。システムが関与していない以上、その場で直しても翌月また同じことが起きます。

変更前:経費がシステムの外を通っていた流れ
  1. 1エンジニアが経費を備考欄に文章で書く
  2. 2請求書では合計欄の外に注記が出るだけ
  3. 3人がシステムの外で金額を足して請求する

毎月、同じ手作業がくり返される

経費は請求と支払の金額に直接効くので、物差しに照らせば範囲の内側です。本人が入力すれば請求に乗る形にしました。決めたことは次のとおりです。

  • 経費を入れるのはエンジニア本人。稼働報告と同じ画面で入れる
  • 項目は交通費・宿泊費・その他の3つに決め打ちにする
  • 経費ごとに取引先へ請求するかを選べる(既定は、エンジニアへの支払と取引先への請求の両方に同じ額で乗る)
  • 経費も稼働時間と同じく、翌月10日の入力締めの対象にする
  • 備考欄の案内を「金額は経費欄へ」に変える
変更後:経費がシステムの中で請求に乗る流れ
  1. 1本人が稼働報告の画面で経費を入力する
  2. 2エンジニアへの支払と取引先への請求書に自動で乗る
  3. 3管理者が振込の前に経費の一覧で確かめる

確認の段階では、消費税を上乗せしない相手(適格請求書を発行する登録をしていないエンジニア)の場合に、立て替えた額より少なく払う計算になっていたのを見つけて直しました。税抜きの額に割り戻すのは、消費税を載せるときだけに改めています。そのうえで検証用の環境で、経費の入力から請求書の確認画面・PDFの明細まで、金額が一致することを目で確かめています。

手間を増やす仕組みは、防げるものと天秤にかける

経費のように「作る」と決めたものの中でも、さらに作らない部分を決めています。区分を細かく分ける、承認の段を挟む、といった仕組みはきちんとして見えますが、全件に手間が増えます。その手間で何が防げるのかを確かめ、防げるものが無ければ作りません。

1つは、立替金(消費税のかからない立て替えとして区別する扱い)の区分です。本件では、やり取りする双方とも原則として課税の扱いなので、区分を分けても手元に残る金額は1円も変わりません。それなのに、契約の条項の確認、領収書の宛名の管理、精算書の作成が全案件で必要になります。会計の正本は会計ソフトに置くという線にも反するので、作らないと決めました。経費は、稼働分と同じく消費税10%の対象として合算しています。

もう1つは、承認の段です。エンジニアからの請求書のメールは、弊社自身の受信箱に届きます。承認する人と受け取る人が同じなので、「承認するまでメールを止める」ことに意味がありません。確かめたいのは「払ってよいか」なので、承認の画面ではなく、振込データを作る前に管理者が経費を一覧で見られる画面を用意しました。おかしな経費に気づいたら、直すのは本人です。

業務システムを発注するときに役立つ3つのこと

「作らない範囲」を、最初に言葉にする

「何を作るか」と同じくらい、「何を作らないか」を最初に書き出しておくと、後から出てくる要望を同じ基準で判断できます。会計ソフトや給与計算ソフトなど、すでに正本を持っている道具があるなら、その仕事を新しいシステムで作り直さないことも大事な判断です。今使っている道具と、それぞれが何の正本なのかを、ご相談のときに一覧にしていただけると話が早く進みます。

迷ったときの物差しを1つ決めておく

「このシステムは何のためにあるか」を一文で言える物差しを持っておくと、境目の要望で迷いません。Compassなら「利益の計算に効くか」です。物差しが決まっていれば、要望を断るときも、作ると決めるときも、理由を説明できます。

「ここだけ手で直している」箇所を教えてください

備考欄に書いて人が足す、別の表で計算して転記する、といった手作業は、新しいシステムを作るときに見落とされやすい部分です。いま現場で「ここだけは手で直している」という箇所があれば、ご相談の際に教えてください。取り込むべきか、外に残してよいかを、物差しに照らして一緒に判断します。

書いた人

野本 健太株式会社Rushout 代表取締役

海上自衛隊、システムエンジニアを経て、2019年に株式会社Rushoutを設立。自社プロダクトの開発と受託開発を手がける。

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